背景をぼかした写真はセンサーが大きなカメラでなければ撮れない
デジカメでは従来のフィルムに相当する部分を撮像素子(センサー)といいます。最近ではCMOSというセンサーが主流になっていますが、このCMOSの面積が大きければ大きいほど
受け取れる光の情報量が多くなり、きれいな写真が記録できます。これはフィルム1コマの面積が大きいカメラほどきれいな写真が撮れたフィルムカメラ時代と同じ理屈です。
現在よく使われているセンサーを面積の大きい順に並べると、
- 1)フルサイズ
- 2)APS-C
- 3)フォーサーズ
- 4)1型
- 5)2/3型
- 6)1/1.7型
- 7)1/2.3型
などです。
センサーの面積が小さいと画質が不利なだけではなく、レンズの焦点距離が短くなるため、背景をぼかした写真が撮れません。背景を思いきりぼかしたポートレート(人物写真)などを撮りたい場合は、少しでもセンサー面積が大きなモデルを選ぶ必要があります。
実際には、APS-Cサイズ以上が必要で、フォーサーズがぎりぎりだと思ってください。
センサーの大きさ比較
青い枠□が35mmフィルム1コマ(フルサイズ)の大きさ。緑色の枠■が当該センサーの大きさです
センサー種類 | 面積比較 | サイズ(mm) | 搭載機種例 |
フルサイズ | | 36×24 | ニコン FXフォーマット機(D4S、D810A、D750、D610など)、キヤノン EOS-1D X、5D、6D、ソニー α7シリーズ レンズ一体型ではDSC-RX1など |
APS-C | | 23×15前後
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多くの従来型「デジイチ」。レンズ交換式ミラーレス小型機ではフジフィルムのX-Pro1やソニーのNEXシリーズ。キヤノンのEOS M。レンズ一体型ではフジフィルムのX100T など
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フォーサーズ | | 17.3×13.0 | OlympusとPanasonicのレンズ交換式モデル。Lumix DMC-LX100など |
1型 (CXフォーマット) | | 13.2×8.8 | ニコンのミラーレス機 Nikon1シリーズ。ソニーのレンズ一体型コンパクト機 RX10、RX100。パナソニックのFZ1000、FZNHなど。Sonyが高性能な1型センサーを作っているので、今後はこれが「カメラ」としての最低基準になりそう。高倍率ズーム機に使ってもそこそこの画質で撮れる |
2/3型 | | 8.8×6.6 | フジフィルム X30、XQ2 など。現在はほぼ市場から消えた |
1/1.7型 | | 7.6×5.7 | オリンパス Stylus1、Lumix DMC-LF1、ニコン P330、リコーGR DIGITAL IVなど。現在は市場からほぼ消えた |
1/2.3型 | | 6.2×4.6 | かつての小型機(コンデジと呼ばれていた)の主流だったが、もはや存在意義なしで市場から消えつつある。焦点距離が短いと超高倍率ズームも作りやすいので、一部の高倍率ズームモデルなどでは生き残っている |
フィルムカメラ時代の一般的一眼レフカメラでは、1コマが36mm×24mmでした。これと同じサイズのセンサーを「
フルサイズ」といいます。フルサイズのセンサーを持つデジタル一眼レフカメラはさすがに高画質ですが、その分、ボディもレンズも大きくなります。必然的に価格も高く、ボディだけで20万円以上は覚悟しなければなりません。ソニーのレンズ一体型の高級機RX1が一眼レフ以外のモデルにフルサイズCMOSを搭載していますが、これも20万円以上します。
フルサイズの約半分の面積のセンサーが「
APS-Cサイズ」です。
APS-Cの正確なサイズは23.4×16.7mmですが、実際には横は22mm~23.6mmくらい、縦が14.7mm~16mmくらいとばらつきがあり、同じメーカーでもモデルによってサイズが微妙に違うなど、完全には統一がとれていません。
普及型のレンズ交換式カメラやレンズ一体型高級機の一部はこのAPS-CサイズのCMOSを採用しています。フルサイズ機は20万円以上を覚悟しなければいけないので、そこまでは出せないという人にはAPS-Cサイズが現実的に望みうる贅沢な設計のモデルといえるかもしれません。
その次に大きいのがフォーサーズ(4/3型)で、面積はフルサイズの約4分の1、APS-Cの約3分の2にあたります。フォーサーズはオリンパスが「デジタル一眼レフではこのくらいのセンサーが最適だ」と提唱した規格で、パナソニックも参加しています。後にそれをミラーレス仕様にしたマイクロフォーサーズという規格ができましたが、センサーの大きさは同じです。
その下はニコンがミラーレス一眼のNikon1シリーズに採用した「CXフォーマット」とも呼ばれる1型で、面積はAPS-Cのほぼ3分の1です。さらに、2/3型(APS-Cの約6分の1)、1/1.7型(同・約8分の1)、1/2.3型(同・約12分の1)……と続きます(上図)。
画素数は「少ないほどいい」という逆説的真実
デジカメ写真は光の点(画素)の集合体として記録されます。横4000画素×縦3000画素の写真を記録できるカメラであれば、4000×3000で1200万画素です。
私が今この原稿を書いているパソコンに接続されたモニターは横1280×縦1024=約131万画素です。1200万画素の写真画像をそのまま全画面表示することはできませんので、9割近くの画素情報を捨てて(間引いて)縮小表示する必要があります。WEB用に加工した画像ならさらに縮小しなければなりません。
印刷する場合でも、例えば葉書大であれば、100万~200万画素もあれば十分です。私が「デジカメに1000万画素はいらない」と主張していたのはそういう意味です。
多くのコンパクト機に採用されている
1/2.3型CMOSは、APS-Cに比べて12分の1ほどの面積しかありません。しかし、こうした安価なデジカメでも、現在では1600万画素などという画素数をうたっているものがあります。小さなセンサーに多くの画素を詰め込めば、1画素が受け取れる光の量は極端に少なくなり、いくら粒子が細かくても、階調の浅い、ノペッとした冴えない写真になってしまいます。そういうカメラを選んではいけません。
むしろ、
同じセンサー面積であれば、画素数が少ないほうが安心です。
例えば、フジフィルムのX100T(レンズ一体型)とX-Pro1(ミラーレス一眼)はともにAPS-Cサイズのセンサーで1630万画素ですが、ニコンのDXフォーマット一眼レフ(D7200、D5500、D5300、D3300)は同じAPS-Cサイズに2416万画素詰め込んでいます。1画素あたりの面積(画素ピッチといいます)はフジのほうが約1.5倍大きい、つまり1画素が受け取る光量が約1.5倍あることになります。
センサーの性能は日進月歩で、単純に画素ピッチの大きさで決まるわけではないですが、物理的な有利さという点ではフジのX100TやX-Pro1のほうが設計思想が正しいということは言えます。
2000万画素以上ある写真ファイルをその解像度のまま使うことはまず考えられません。印刷では200DPI(DPI=Dot Per Inch とは 1インチあたりに画素がいくつ並んでいるかという単位)以上あれば十分にきれいな印刷になりますが、200DPIで2400万画素の写真(6000×4000ピクセル)を印刷すれば76.2×50.8センチになります。ポスターでも印刷するなら別ですが、通常はそんなケースはないでしょう。もちろん、解像度が不必要に高いと写真1枚あたりのファイルサイズも大きくなり、ファイルの保存・管理も大変です。
私が『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)を書いたのは2008年ですが、2018年末現在では1000万画素どころか、一般に売られているデジカメの画素数でいちばん少ない画素数が1600万画素くらいになっています。1画素あたりの面積が最も大きいカメラは、おそらくSONYのミラーレス機α7Sで、フルサイズCMOSを1220万画素に抑えています。
プロ御用達の1つ ニコンのフルサイズモデル
D4S
ニコンのフルサイズ(FXフォーマット)
一眼レフのプロ仕様上級モデルD4S(実売価格で約60万円)は1623万画素で、これは同社の最も安価なコンパクト機 COOLPIX S2900(1/2.3型CMOS 実売価格は1万円以下)の2005万画素より画素数は少ないのです。メーカーも、高品位な画像を撮るためには画素数を抑えて1画素あたりの面積(画素ピッチ)を大きくとらなければならないということを分かっているからです。
それなのになぜ小さなセンサーの低価格デジカメを高画素にするかといえば、写真のことを知らない素人ユーザーには
画素数の多さ=高画質だと勘違いしている人が多いからです。まったく馬鹿馬鹿しい話です。
ただし、
センサーそのものの性能向上がありますので、
古いセンサーと新しいセンサーを単純に画素数だけで比較することはできません。具体的には、センサーの主流がCCDからCMOSに移行していた時期の1200万画素CMOSあたりはいちばんひどい性能で、現在の2000万画素以上のCMOSよりも画質ははるかに劣ります。
デジカメの画像は「修正済み」画像
小さなCMOSに多くの画素を詰め込んだことによる画像の劣化は避けられません。その物理的な限界を乗り越えるために、昨今のデジカメは内蔵コンピュータが様々なシミュレーションのもとに
画像を補整し、パッと見ではきれいに見えるように仕上げています。
実際には記録されていない色を補ったり、暗く写った部分を検出してそこだけを自動的に明るくするといった「加工」を施しているのです。こうした処理をするソフトを「映像エンジン」と呼びますが、完全なアナログ処理だったフィルム写真とは違い、デジタル写真は、実際には記録されていない要素をコンピュータ処理で積極的に補うことで
映像を「作っている」と言っても過言ではないでしょう。
ちなみに、「下手なデジカメよりきれいに撮れる」と評判のiPhone(4S)の内蔵カメラは、1/3.2型という非常に小さなセンサーに800万画素を詰め込んでいますが、HDR(ハイダイナミックレンジ)という処理機能を搭載しています。これは、同じ写真を明るめ、標準、暗めと3段階に露出を変えて記録し、その3枚の画像を合成することで、色のつぶれや白飛び(ある明るさ以上の部分が真っ白に記録されてしまう現象)を抑えるといった裏技的な機能です(iOS4.1以降に搭載)。今後もこうした合成写真的な処理をカメラの内部でする技術はどんどん進んでいくと思われます。
デジカメ写真は「作り物」であるということを分かった上で、割り切って使うことが求められているのです。
←これは
フジフィルムのXQ2S というコンパクト機です。いわゆるコンパクト機のサイズでありながら、センサーは2/3型と、このサイズのカメラとしては大きなものを搭載し、しかも1200万画素に抑え、コンパクト機が馬鹿げた高画素競争をしていた時代にも頑張っていましたが、製造終了となり、後継機も出ていません。
そしてついに豆粒センサーに高画素を詰め込んで画質をわざわざ落とすような「素人騙しモデル」は一掃され、今は1型センサー以上の時代になりました。