たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 デジタルストレス王

デジタルカメラの重要な性能・撮像素子面積

撮像素子の大きさは性能と価格に直結

(2016/12/04 更新)
フィルムカメラにおいても、フィルム1コマあたりの面積が大きければ受け取る光の情報量が増え、画質は上がります。プロが「大判」や「中判」と呼ばれる大型のカメラを使っていたのはそうした理由からです。
デジタルカメラの撮像素子(CCDやCMOSなどのセンサー。銀塩カメラのフィルムに相当する部品)もまったく同じです。
撮像素子(センサー)は、1枚の大きな基盤から豆腐のように1枚1枚切り出して作ります。ですから、センサーの面積はそのままカメラの価格に直結します。
大きなセンサーなら1画素あたりの受光量も余裕があり、写真の画質も上がります。小さな撮像素子に無理矢理たくさんの画素を詰め込めば、1画素あたりの受光量は減り、どうしても無理が出ます。カメラメーカーはこのことをなかなか公表せず、画素数の多さばかり謳いますが、画素数より大切な要素が「撮像素子面積」、さらにいえば「1画素あたりの面積」です。
例えば、現在多くのコンパクトデジカメに採用されている1/2.3型というCMOSセンサーは約6.2mm×4.6mmですが、これは35mmフィルム1コマ(36mm×24mm)の1/30の面積です。そこに1600万画素以上詰め込んでいます。
35mmフィルム1コマと同じ面積の撮像素子を持つデジカメは「フルサイズモデル」と呼ばれ、高価です。
ちなみに、ニコンの最初のフルサイズ機D3は1200万画素でした。1/2.3型の30倍の面積を持つフルサイズセンサーにコンパクトデジカメより少ない1200万画素です。1/2.3型に1600万画素を詰め込んだコンパクト機と比較すれば、1画素あたりの面積は実に42倍になります。
D3は製造終了しましたが、ニコンの現在のフラッグシップモデルであるD4も、画素数は約1600万画素に抑えています。これでも、1/2.3型の1600万画素に比べれば、1画素あたりの面積は30倍です。
1画素あたりの面積が大きくなれば、それだけ受光量が増え、1画素が受け取れる情報量が増え、色階調が深く、明暗差にも強い、美しい写真が記録できます。
小さな撮像素子で受けたわずかな光を1000万分の1とか1600万分の1に割って情報を得ることには無理がありますし、ナンセンスです。結果として、1/2.3型の豆粒センサーを使ったコンパクトデジカメは、スマホの内蔵カメラにさえ勝てず、駆逐されていきました。
現在ではコンパクト機も1型以上のセンサーを使う高級路線に転じました。このセンサーを作る技術はソニーが世界一で、ほぼ独壇場になっています。

撮像素子の大きさ比較

青い枠が35mmフィルム1コマ(フルサイズ)の大きさ。緑色の枠が当該撮像素子の大きさです


撮像素子種類面積比較サイズ(mm)搭載機種例解説
中判44×33mmセンサー44×3335mmフィルム1コマを超える大きさ。ペンタックス645D(初代モデル)と後継機種645Zペンタックスはついにフルサイズを超える「中判」サイズの撮像素子を持つデジカメを発表した。645Zの価格はボディのみで2016年末時点で約80万円。
フルサイズフルサイズ36×24ニコンFXフォーマット機(D4、D800、D600)、キヤノン EOS-1D、5D、6D、ソニー α99 など35mmフィルム1コマの面積に等しいサイズの撮像素子をもつデジカメを「フルサイズモデル」と呼ぶが、高価。ボディも大きくならざるをえない。ソニーが出したレンズ(35mm/F2)一体型の高級機RX1はフルサイズCMOSを搭載したことで話題に。
APS-C23×15前後
ほとんどの従来型「デジイチ」。レンズ交換式ミラーレス小型機ではフジフィルムのX-Pro1やソニーの旧NEXシリーズ、α6000番台。キヤノンのEOS M。レンズ一体型ではフジフィルムのX100など。 APS-Cの規格は本来23.4×16.7mmだが、実際にはAPS-Cサイズと呼ばれている撮像素子の面積はまちまち。EOS Kiss X50は約22.0×14.7mm。レンズ一体型のフジフィルムX100は23.6×15.8mm。同じメーカーでもモデルによって違ったりする。シグマでは20.7×13.8というモデルもあった。そのため、見かけの画角も約1.5倍~1.6倍と微妙に違ってくる。また、レンズの設計も曖昧にならざるをえない。
フォーサーズフォーサーズ17.3×13.0OlympusとPanasonicのレンズ交換式モデル。LUMIX GF5などオリンパスが提唱したデジカメ一眼の規格。パナソニックも参加。その後、ミラーレスでボディとレンズの小型化を図ったマイクロフォーサーズが出て、今はそちらに力を入れている。撮像素子面積は同じ。フォーサーズ用レンズはAPS-Cサイズ用レンズよりさらに焦点距離が短くなるため、背景をぼかすには不利。
1型
(CXフォーマット)
13.2×8.8ニコンのミラーレス機 Nikon1シリーズ。ソニーのレンズ一体型コンパクト機 RX100、RX10シリーズなど。フォーサーズよりさらに小さいが、一般のコンパクト機の撮像素子よりはずっと大きい。ソニー製の2000万画素1型CMOSは傑作で、現在はパナソニックやキヤノンなどもこのセンサーを使ったレンズ一体型モデルを作っている
2/3型8.8×6.6フジフィルム X20、X10、XF1、X-S1などかつて、このサイズのCCDは中型レンズ一体型カメラによく使われていた。ソニーのF707、727、828、コニカミノルタ A200などなど、名機が多かった。おそらく最後の2/3型CCD採用モデルはフジフィルムのFinePix S100FSで、これが製造終了して2/3型CCDは消えたと思ったが、最近、FinePix S100FSの後継機とも言えるフジのX-S1という超弩級レンズ一体型カメラに2/3型CMOSが搭載された。XF1、X100といったコンパクト機にも同じものが採用されている。画素数を欲張らなければ、1画素あたりの面積は1/1.7型を採用している高級コンパクト機より大きくできる。X-S1では、面積が小さいのを逆手にとり、24-624mm相当という超ズーム比のレンズを組み込んだが、画質は伸びず、はるかに性能の高いソニー製1型センサーの登場で役割を終えた感がある。
1/1.7型7.6×5.7Lumix DMC-LX7、ニコン P330,リコーGR DIGITAL IVなどコンパクト機のほとんどが1/2.3型だから、それに比べるとかなり大きいが、画素数を欲張るとたちまち破綻するサイズ。かつてはこの1つ上に1/1.63型CCD(Lumix LX3、LX5など)。この下に1/1.8型CCD(Lumix DMC-FZ30など)、1/2型CCD(Olympus C2040ZOOMなど)などもあった。1/2型CCD時代はまだ200万画素がせいぜいだったので、1画素あたりの面積はそこそこ保てていたため、今の低価格コンパクト機よりきれいな画質で撮れるものもあった。しかし、ソニー製1型センサーの性能にはまったく太刀打ちできず、消えていった。
1/2.3型6.2×4.6現在でも小型機の主流となっているセンサー。パナソニックの大型機FZ200など最初の1/2.3型(1/2.33型)CCDはシャープが開発し、2008年頃はほとんどのモデルに採用されるほど一世を風靡した。対角7.7mmのCCDに1000万画素を詰め込んでいたが、その後、同一サイズで1300万画素、1600万画素と増やしていき、その弊害で、実質的な画質はよくならなかった。現在はCCDではなくCMOSが主流。かつてはこの下に1/2.5型(5.7×4.3mm)という小さなCCDもあって2002~2004年くらいの主流だったが、当時はまだ500万画素時代だったので1画素あたりの受光量は今のモデルよりあった。CCDからCMOSに移行した直後の1/2.3型CMOSは最悪の画質だった。

こうして実寸比を図で見ると、撮像素子の大きさがいかに違うものかが一目瞭然です。
コンパクトデジカメによく使われている1/2.3型CMOSは、35mmフィルム1コマに対して3%強の面積しかありません。つまり、フルサイズデジタル一眼の撮像素子に比べると、1/30の面積に画像を記録しているわけです。
それなのに、画素数はフルサイズ機並み、あるいはそれ以上! こんなバカげた設計はありません。

撮像素子を自社で開発していないカメラメーカーもたくさんあります。しかも、今はケータイ内蔵カメラ用のCMOSの製造数が多く、安くOEMで部品供給されるため、低価格のコンパクト機ではそうしたCMOSを使うことになり、メーカーの技術者が理想とするカメラが作れないという事情もあります。

撮像素子面積は大きければ画質の点で有利ですが、組み合わせるレンズも大きくなるために、小型化が難しくなります。また、重要なのはそこに詰め込む画素数との「比率」です。
例えば、フルサイズ撮像素子の面積は36×24=864平方ミリです。ソニーのフルサイズ機α99は総画素数2470万画素といっていますので、割り算をすると、約0.000035です。
同じフルサイズ機でも、ニコンが最初に出したD3は約1210万画素といっていましたから、同じ計算をすると、約0.0000714で、1画素あたり倍の面積になります。
同じニコンのコンパクトデジカメCOOLPIXシリーズの最上位機種のA900は、1/2.3型で2114万画素といっていますから、6.2×4.6(平方ミリ)÷2114万(画素)で、約0.00000135となり、ニコンD3と比べると714:13.5、実に53倍もの大きさの違いがあるわけです。
以下、上の一覧で紹介した代表的面積の撮像素子を採用したモデルの、「1画素あたりの面積」を比較してみます。数値は平方マイクロメートルです。

機種別、1画素あたりの面積比較

撮像素子種類1画素あたり面積搭載機種例解説
44×33mmセンサー
中判

43.8×32.8

約28
ペンタックス645Z
5140万画素
確かに撮像素子面積は大きいのだが、5000万画素という欲張った画素数を詰め込んだために、1画素あたりの面積は一般的なフルサイズ機よりもむしろ小さい。見た目の「画質」よりも、超高解像度が必要な特殊な仕事(大判ポスター、学術用途、調査用途、天体の撮影など)のためのカメラと考えたほうがいい。一般に「美しい写真」「感動的な写真」を撮りたいという人が必要とするカメラとは思えない。
フルサイズ
フルサイズ

36×24

約52
ニコン D4
1660万画素
撮像素子面積は「中判」のペンタックス645Dより小さいが、画素数を抑えているので1画素あたりの面積は645Dよりもずっと広いことに注目。実際の「見た目画質」においては、解像感、階調の深さ、奥行き感など、あらゆる点で優れた写真が期待できる。しかし、当然のことながらそれを生かせる高性能なレンズと撮影技術があってこその道具。

APS-C

22.3×14.9

約18.46
キヤノン EOS M
1800万画素
APS-Cサイズと呼ばれているカメラの撮像素子面積はばらばらだが、ここでは「ネオ一眼」「ミラーレス」などと呼ばれているレンズ交換式小型カメラを代表してもらい、EOS Mを取り上げた。フルサイズの約半分の撮像素子面積だが、ニコンD4の1600万画素より多い1800万画素を詰め込んでいるため、1画素あたりの面積はD4の半分以下(約36%)である。
APS-Cサイズ専用のレンズは数も多く、価格もこなれているが、各社マウントが違い、同じレンズにマウントだけを付け替えている製品がほとんどなので、撮像素子面積の違いに合わせた厳密な設計ができないという弱点を抱えている。
フォーサーズ
(マイクロ)
フォーサーズ

17.3×13.0

約13
オリンパスペン E-PL5
1720万画素
オリンパスが提唱したデジカメ一眼の規格「フォーサーズ」は、それなりによくできた規格で、カメラの性能もよかったが、価格の点などからそれほど売れず、商業的には成功したとは言えなかった。今は同じ撮像素子規格でボディをミラーレスにした「マイクロフォーサーズ」に力を入れていて、今後はマイクロフォーサーズ中心の商品開発になっていくだろう。
ここではオリンパスペンを取り上げたが、1720万画素を詰め込んだために、1画素あたりの面積はEOS Mよりさらに小さい。

1型
(CXフォーマット)

13.2×8.8

約11
Nikon1 J2
1050万画素
撮像素子面積はフォーサーズよりさらに小さいが、一般のコンパクト機の撮像素子よりはかなり大きい。ボディの小型化を主眼とするなら、このくらいの面積が理にかなっているとも思える。画素数を約1000万画素に押さえ込んだのも理性的。後発だけあって、規格そのものはリーズナブルといえるが、問題はレンズ群の魅力をどこまで延ばせるかだろう。暗くて高価なレンズなら魅力がないし、撮影スタイルも中途半端なものになってしまう。これは他のレンズ交換式小型カメラにも共通して言える問題。

1型

13.2×8.8

約5.58
RX100 SONY DSC-RX100
2090万画素
1型センサー時代を開いたヒット商品。この2000万画素1型センサーはよくできていて、その後、裏面照射型、裏面照射・積層型と進化した。1000万画素に抑えていれば圧倒的な画質を誇れたと思うが、ソニー製センサーの実力は他社を圧倒しており、このセンサーあたりからは画素数だけで判断できない「技術力」の差が大きな問題となってきた。現在はキヤノンやパナソニックも自社開発を諦めてこのセンサーを使ったカメラを次々に投入している。

2/3型

8.8×6.6

約4.84
フジフィルム X-S1
1200万画素
おそらく2/3型撮像素子を搭載したカメラは、現行機ではこのX-S1くらいだろう。1/2.3型よりは大きいが、超高倍率ズームを生かしきれるだけの実力がない。ソニーの1型センサーが出てからは完全に画質で負けてしまい、存在意義を失った感がある。

1/1.7型

7.6×5.7

約2.58
Lumix DMC-LX7
1280万画素
ガバサクがお勧めし続けてきたパナソニックのLXシリーズも、健闘虚しくソニーのRX100以降はセンサーの実力でソニーに勝てず、この後のLX100ではついにフォーサーズ用センサーの周辺を切り捨てて使うという大胆な発想の転換をした。その後は観念してソニー製1型センサーを採用してFZ1000などを発表して成功。レンズ性能や設計思想ではソニーに負けていないので、これからも良心的な製品作りに期待したい。

1/2.3型

6.2×4.6

約1.7
ニコン Coolpix S9300
1679万画素
かつてのSONY U50 ほとんどのコンパクト機──凡百のモデルはこのレベルの撮像素子を採用している。1/2.3型で1600万画素など笑止千万。ましてやケータイ内蔵カメラの1000万画素超えはナンセンスの極致。いくら映像エンジンで工夫してきれいな写真に仕上げても、暗い室内や階調(コントラスト)が大きな写真(例えば深い緑の葉の中の真っ白な花びら)を撮るとノイズだらけになる。この手のモデルは最初から問題外。メーカーとしても「安くて儲からないし、どうせ素人が画素数の数字に騙されて買うようなモデルだから」と、力を入れていないことは明らか。このレベルのカメラを買うくらいなら、ケータイ内蔵カメラでよい。
しかし、1/2.3型で300万画素、500万画素くらいの撮像素子を作れたら、超小型の単焦点スイバルモデルをぜひ出してほしい。かつてのSONY U50(写真右上)のような。そういうものが出たらすぐに買いたい。ケータイよりも機動性があり、画質もよいメモ機として常にポケットに入れて持ち歩くことになるだろう。(ちなみにU50は200万画素だったが、それで困ることはまずなかった)

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